復興の遅れ:利用が低調な二重ローン救済制度

最終更新日:2012年10月25日。
※ 個人版私的整理ガイドライン、東日本大震災事業者再生支援機構、
  産業復興機構の運用状況を更新。
※ 記事を全面的に加筆・修正。

東日本大震災で震災以前から借金がある方が、再出発に向けた住宅の建設、
会社再建のために新規ローンを組むことで発生する二重ローン

東日本大震災では被災者の生活支援、事業再建支援、復興促進のため、
二重ローン解消策として下記の債務減免制度と金融機関からの債権買取機構が
設立されています。

・個人の被災者向けの個人版私的整理ガイドライン
・被災中小企業向けの産業復興機構
・被災小規模事業者、農林水産業者、病院分野を対象にした東日本大震災
 事業者再生支援機構

これら二重ローン救済制度、機構の説明と利用状況についてです。

 
 
 
個人版私的整理ガイドライン
 ※ ガイドラインの説明、対象者、債務整理決定者数

  ガイドラインの利用が進まない背景

東日本大震災事業者再生支援機構
 ※ 支援機構の説明、対象事業者、利用状況

産業復興機構
 ※ 復興機構の説明、対象事業者、債権買取件数

両機構による債権買取が進まない背景

 
 
 
個人版私的整理ガイドライン

 震災前の借金返済が困難になった被災者の方を対象に、法的な破産手続きを取らずに
 被災者と金融機関の話合いで一定の要件の下、債務を減免または免除する制度です。

 2011年8月22日に銀行協会、日本弁護士連合会が政府の方針を受けて作成しました。
 ※ ガイドラインの詳細はこちら

 岩手弁護士会の弁護士小口幸人氏によるガイドラインの説明動画。
  ・個人版私的整理ガイドラインの説明動画、岩手県版
  ・個人版私的整理ガイドラインの説明動画、宮城県版
  ・個人版私的整理ガイドラインの説明動画、福島県版

  動画によると制度の利用は早いほど免除額が大きく、本来ならローン返済に
  あてる資金を今後の生活再建にまわせます。

 
 ガイドラインの特徴

  ・自己破産の法的整理を取らないため、個人情報登録による不利益を回避。
  ・債務整理後も新規ローンを組めます。
  ・運営委員会が申請書類の準備や弁済計画の作成を支援する弁護士を紹介します。
   弁護士費用は国が全て負担。
  ・減免後の弁済期間は原則5年。

  ・残せるものは破産手続きにおいて「自由財産」と扱われる財産です。
   ※ 自宅や土地は自由財産ではありません。
   ※ 建物や土地の価値に相当する金額を債権者に支払うことで、
     建物や土地を持ち続ける弁済計画案を認めています。

  以下ガイドラインのQ&Aより一部抜粋。自由財産の例

  ① 債務整理の申出後に、新たに取得した財産
  ② 差押禁止財産(生活に欠くことのできない家財道具等)
   ※ 高価でない車、生活再建支援金、災害弔慰金・見舞金、義援金等
  ③ 現金(上限有り)
   ※ 東日本大震災では最大500万円に拡張。
  ④ 破産法第 34 条第4 項に基づく自由財産の拡張に係る裁判所の実務運用に従い、
   通常、自由財産とされる財産

 債務整理成立件数

  岩手県:21件、宮城県:62件、福島県:9件、他県:8件
  相談件数:3052件
  利用を希望して手続きを進めているのは約835件。
  ※ 2012年10月24日時点
  ※ 参考:個人版私的整理ガイドライン運営委員会

 
 
 ガイドラインの利用が進まない背景

 被災者の二重ローン救済制度として当初国は1万件の利用を見込むも、
 低調な利用状況が続くガイドライン。その背景にある事情の紹介です。
 
  財産を手放すことへのためらい
  制度の詳細を知った相談者の40%ほどの方
  「自宅は手放したくない」「土地がいくらで売れるか分からず、判断できない」
  引用:朝日新聞(2012/10/22)

 
  制度の対象外
   相談者の20%ほどの方
   世帯所得が比較的高かったり財産額が借金額を上回ったりするなどして
   要件に合わず、制度を使えない。
   引用:朝日新聞(2012/10/22)

   宮古市の家族4人で暮らす家族の例。
   住宅ローンの残額は2000万円。収入は夫婦あわせて30万円あるものの、
   災害公営住宅の家賃は8万円の試算。小中学校の子供も2人いる状況のため、
   生活が苦しくガイドライン利用を相談。
 
   しかし運営委員会岩手支部の担当者からは、夫婦が震災後も仕事を失って
   いないことを理由に「ガイドラインは本当に困っている人の制度」と利用に難色。
   参考:毎日新聞(2012/8/12)

 
  新規融資への影響が不安
   仙台市の弁護士「金融機関の同意で整理しても、『いったん減免してもらったので、
   次に新規融資を求める時に貸してもらえるのか』と不安な被災者が多い」と指摘
   引用:朝日新聞(2012/10/22)

  減免後の弁済期間は原則5年にためらい
   住宅ローンが約2300万円残る宮古市の40代男性。
   運営委員会に相談したところ既存ローンを約1100万円に減額可能とのこと。
   しかし期限内に完済するには、支払いが今の倍以上の月約20万円に膨らむ試算に。
   参考:毎日新聞(2012/8/12)

 
  制度PRや減免に消極的な金融機関
   ある地方銀行の担当者は「我々の仕事とガイドラインとがそもそも矛盾している。
   債務を帳消しにするのに、積極的には紹介しづらい、というのが本音」
   引用:朝日新聞(2012/10/20)

   仙台弁護士会が7月、弁護士が相談に乗っている県内の被災者45人に
   聞いたところ、金融機関に借金返済について相談した38人のうち、制度の
   説明を受けた人は15人だけだった。
   引用:読売新聞(2012/8/25)

   別の仙台市の弁護士によると、宮城県の金融機関との協議中に
   「こちらも被災地にあるのだから、互助の精神を発揮してほしい」と
   減免額の減額を求められたという。断ると、「債務者の不利益になる
   可能性がある」との書面が送られてきたという。
   引用:朝日新聞(2012/10/22)

 
 
  被災者支援、引いては復興支援への思いの一方で、経営リスクを天秤にかけ、
  ぎりぎりの支援ラインを引こうとしている金融機関。そして復興促進のため
  金融機関に協力を呼びかける行政との思惑が交差しています。

 
 
 
東日本大震災事業者再生支援機構

 震災以前から過大な債務を負っている被災事業者の債務を軽減し再生を図る
 ため、【国が設立した機構】。財源は2011年度の4次補正で5000億円の政府
 保証枠を設け、2012年2月22日に発足。

 金融機関と連携し債権を買い取った後、元本と利子の返済猶予(最大15年間)や
 債務免除により返済の負担を軽減し再建を後押し。支援決定は5年以内。
 ※ 2012年7月17日から通常6ヶ月は必要な案件対応時間を3ヶ月に短縮。

 
 支援機構の池田憲人社長のインタビュー
 
 「被災した事業者が二重ローンに陥ることを回避するため、事業者への債権を
  買い取って民間金融機関との仲介役を担うほか、つなぎ融資や専門家の派遣を
  通じて、事業の再建を後押しする。被災地のために新たなビジネスモデルを
  作るのが使命だ。」
  引用:読売新聞(2012/9/4)

 「相談を受けたら、公序良俗違反でない限り断りません。重視しているのは小規模な
  事業者で、最長15年かけ復興に導きます。200万円の借り入れに苦しむ岩手県の
  美容室や同県で漁船を被災した漁業者にも支援を決めました。」
  引用:読売新聞(2012/10/23)

 
 対象事業者
  東日本大震災で受けた被害により過大な債務を負っている事業者で、
  対象地域において事業の再生を図ろうとする事業者

  ・大企業、第三セクターは対象外
 ・小規模事業者、農林水産事業者、医療福祉事業者は重点的支援対象
 ・下記の産業復興機構が支援することが困難な事業者

 
 利用状況
  相談依頼件数:681件、支援決定:41件、支援へ最終調整中:101件
  ※ 2012年10月24日時点
  ※ 参考:東日本大震災事業者再生支援機構

 
 
産業復興機構

 収益力に対して過大な債務を負っている被災事業者の二重債務問題へ
 対応するため産業復興機構を県ごとに設立。
 
 被災前の債権を機構が買い取って元利金の返済を一定期間棚上げし、
 地元の地方銀行や信用金庫が新たに復興資金を融資します。

 ※ 金融機関から被災企業の債権を買取り、支払いを凍結する県、中小機構、地域
   金融機関による共同出資のファンドです。

 相談窓口である県産業復興相談センターは県毎に設立。設置は岩手、宮城、福島、
 茨城、千葉。

 岩手県、2011年11月11日設立。宮城県、2011年12月27日設立。
 福島県、2011年12月28日設立。

 対象事業者
  産業復興機構が「債権の買取等を行うことにより」、「関係金融機関の
  新規融資が見込まれる」こととなり、「県産業復興相談センターにおいて
  再生可能性があると判断された」中小企業が対象。

 債権買取件数
  岩手産業復興機構:30件
  宮城産業復興機構:18件
  福島産業復興機構:3件
  ※ 2012年10月24日時点。
  ※ 参考:岩手県HP宮城県産業復興相談センター福島県HP

 
 
両機構による債権買取が進まない背景

 東日本大震災事業者再生支援機構は「中小企業のローンの多くに信用保証が付いて
 いることも、債権買い取りを難しくしている」と指摘する。震災特例により、
 信用保証が付いている場合はその企業が返済不能となっても、債権者である
 金融機関は全額回収できる仕組みだ。機構による債権買い取りの場合、額面を
 下回る恐れがあり、嫌がる金融機関もあるという。
 引用:読売新聞(2012/7/23)

 約1700万円のローンを抱える釜石市の書店が被災した男性(58)
 「どこで再開できるかも決まらない段階で、新しいローンのことなんて考えられない」
 引用:読売新聞(2012/7/23)

   
 防災集団移転、土地区画整理、土地のかさ上げ等、復興事業は時間がかかり、
 地域の先行きが不透明な中、被災事業者が再建のために新たなローンを組むことに
 二の足を踏むのも、債権買取が進まない1つの要因となっています。

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