復興の遅れ:難航する復興事業の土地買収

最終更新日:2012年11月13日
※ 11月12日、土地の抵当権解除に向けて新たな動きがありました。

復旧・復興事業で難航している県や市町村による土地買収。

震災がなくとも一筋縄ではいかない手続きが、震災によって土地所有者や
相続人が行方不明または死亡していることで、問題を複雑にしています。

さらに住宅ローンが完済していない等、被災宅地が金融機関によって
抵当権が設定されているため、自治体が買取れない事態も発生しています。

 
 
 
土地問題を巡る果てしない作業

  地権者の確定問題:未相続、地権者が死亡・行方不明、相続争い、多人数で共有

  買収対象の土地面積の確定作業

  地権者との交渉

  被災地首長の声:土地取得に特例措置を

抵当権がついた土地問題

  金融機関:復興支援と経営リスクで板ばさみ

  住宅ローン完済せずとも抵当権を解除

 
 
 
 
土地問題を巡る果てしない作業

 復旧・復興事業で不可欠な行政による土地買収。迅速な買収を望むも震災による
 影響と従来制度の壁が立ちふさがり難航しているのが現状です。

 
 自治体による土地買収が難航する要因

  自治体が復興事業のため土地を買収するにあたり、「土地所有者(地権者)の確定」、
  「買収対象の土地面積の確定」、「地権者全員からの同意」が必要となってきます。

 
  特に一筋縄で行かないのが地権者と土地面積の確定です。

 
  土地問題を複雑にしている最大の原因は、地籍調査が完了してない地域は不動産の
  所有者、面積、境界等を記載している登記簿が不完全だからです。
  さらに長年未相続の土地が多いことも相続資格者数が増えることで問題に拍車を
  かけています。
  ※ 地籍、地籍調査の詳細はこちら(国土交通省)

 
  境界を決める地籍調査は市町村の担当ですが、労力不足などで思うようにはかどらず
  不動産登記法で定められた境界を経度や緯度で示す地図が未整備の地点が少なくない
  ようです。
  参考:河北新報(2012/6/24)

 
  そのため、登記簿から土地の境界、面積や土地所有者が判明しないケースが
  多く、それを確定させる作業が必要になってきます。買収する土地面積を確定させる
  ためには、土地の境界を確定させる必要があります。境界確定には隣接する土地を
  含めた地権者全員の同意が必要です。

 
 
 地権者の確定問題:未相続、地権者が死亡・行方不明、相続争い、多人数で共有

  土地を買上げるためには地権者を確定しなければなりません。しかし今回被災の
  自治体では、先祖代々受け継がれ相続手続きがされてない土地や、所有者、相続者が
  死亡または行方不明等で難航するケースが目立つ状況です。

  用地取得は土地所有権を相続した全員から同意を得る必要があり、行方不明者が
  含まれ交渉がまとまらない場合、親族らには不在者財産管理人制度や失踪宣告制度も
  検討してもらいます。
  参考:河北新報(2012/6/24)

  以下は買収対象となる土地の未相続や相続資格者が多人数に上る実例です。

 
  東北地方で整備が進められている「復興道路・復興支援道路」(詳細はこちら)。
  事業区間の買収予定地に関して、国土交通省三陸国道事務所
  
  これまでの調査で、30か所が「登記が不完全で境界が未確定」、20か所が「相続人が
  行方不明か、相続争いがある」、10か所が「10人以上の地権者が共有している」状況で
  あることを確認。
  引用:読売新聞(2012/10/8)

 
  岩手県の復旧事業
  岩手県が実施する防潮堤かさ上げなどの復旧事業で買収予定の民有地約950区画
  のうち約4割が所有者不明だったり、所有者が多すぎたりして取得が難しいことが
  1日、県の調査で分かった。
  引用:毎日新聞(2012/8/2)

 
  女川町の移転候補先
  町が移転先に見込んだ山林の土地名義人が約50年前に死亡していたケースも
  その一つ。調べると、相続の資格がある関係者は子や孫ら27人に上ることが
  分かった。関係者同士の話し合いで名義人を絞った後の交渉になるが、名義変更
  には労力も費用も掛かる。
  引用:河北新報(2012/9/14)

 
  大槌町赤浜
  赤浜は震災前に町が地籍調査をしていなかった。土地登記を調べると、所有者が故人の
  所もあった。震災で死亡した場合も、名義の書き換えをせず何代も続いている場合も
  あった。「所有者を確定するために親族で協議したり、相続権のある親族に会いに
  海外まで行かねばならなかったりすることもありうる」
  引用:朝日新聞(2012/9/11)

 
  岩手県による沿岸12市町村の調査
  震災で所有者が行方不明となっているケースが多く、明治時代の所有者45人が
  登記したまま相続人をたどると延べ326人となる区画もあったという。
  引用:毎日新聞(2012/8/2)

 
  南三陸町
  集団移転事業の予定地の一部に、相続が行われていない土地が含まれていることが
  判明。この土地を対象から除外し、他の土地を計画に加えるなど、事業を見直さざる
  を得なかった。
  引用:読売新聞(2012/8/25)

 
 
  所有者不明の土地取得問題
  所有者不明の土地取得のため家庭裁判所で手続きすると最低3カ月かかる。
  買収難航による土地収用手続きは国との事前協議も含めるとさらに長期間を
  要するという。
  引用:毎日新聞(2012/8/2)

 
  土地の地権者確定、相続問題が復興事業のスピードを鈍らせ、自治体職員の
  負担になっていることが伺えます。

 
 
 買収対象の土地面積の確定作業

  土地を買収するにあたり、土地面積を確定するための境界が、津波被災で不明に
  なったり、地震による地盤のずれで曖昧になるなどの問題が発生。地籍調査が
  終わってない地域も多く、自治体は境界の確定作業に追われています。

 
  土地の境界確定には隣接する土地の地権者を含めた関係者の立会いによる確認作業が
  必要です。さらに、土地所有者の死亡や行方不明で、土地の相続資格者が相当数に上る
  ことが、時間がかかる要因となっています。

  ※ 土地買収面積の確定に必要な立会い
    土地区画整理事業などで自治体が用地取得する際、登記簿に記載された面積と
    実際の面積が異なることが多いことから、通常所有者の立ち会いの下で測量を
    行って面積を確定させる。
    引用:読売新聞(2012/10/5)

 
  仙台市
  震災の地殻変動で土地が東に数メートルずれたうえ、擁壁などの境界線が
  津波で流失した。「土台ごと流された家もあるし、古い家だと境界線自体が
  無かったところも多い」。
  引用:朝日新聞(2012/7/8)

 
  岩手県田野畑村
  7~8月に移転事業の候補地計5か所で立ち会いを行った。海岸に近い予定地は、
  共同所有者を含めると約50人もの地権者がいたという。中には新潟県や青森県から
  来てもらったケースもあったといい、岩手県土地開発公社の担当者は「ここまで
  こぎ着けるのに4か月もかかった。用地取得には地権者全員の同意が必要なので、
  まだまだ気が抜けない」と話していた。
  引用:読売新聞(2012/8/25)

  
  土地の面積や境界を明確にする地籍調査の県内の進行率は11年度末で83%。
  宮古、釜石など被災4市町に限ると33~44%にとどまり、用地取得に時間がかかる
  要因になっている。
  引用:河北新報(2012/)

 
 
 面積確定手続きの簡略化:立会い省略への動き

  自治体が仮の境界と面積を算出し、関係者に送付することで、立会いの手間を
  最小限に抑える動きも広まりつつあります。関係者が集まる立会いは異論があった
  時だけにする取組みです。

 
  大槌町
  登記簿上の面積に一定の割合を乗じて買収面積を算出し、
  所有者らに「確認書」を送付して交渉を進める。立会いの
  下での測量を省くことを決めた。
  引用:読売新聞(2012/10/5)

 
  仙台市
  市は公図や道路台帳など既存資料を駆使して仮境界を設け、
  面積を算出する方針を打ち出した。仮面積は仮境界の写真を添えて土地所有者に送付。
  異論がなければ、隣接所有者も含めた立ち合いの確認作業を省き面積を確定。 
  引用:河北新報(2012/9/14)

 
 
  土地の境界確定、撤去作業の不安

  移転する被災者の方からすれば、被災宅地を少しでも高く売り、今後の住宅再建や
  災害公営住宅入居後の生活の原資にしたいところ。だからこそ、震災で不明に
  なったり、今まで明確でなかった土地の境界を明確にすることは、隣人トラブルに
  ならないか心配する方が多いようです。

 
  仙台市の町内会の会合での市幹部らへの測量に関する質問
  「みな自分の土地を少しでも高く売りたい。でも、震災で親が亡くなり、
  どこが境界線かを知らない若い世代もいる。隣同士でもめ事になるのでは」
  引用:朝日新聞(2012/7/8)

 
  気仙沼市では建物の基礎を撤去すると、土地の境界がわからなくなり、
  隣人トラブルにつながる懸念から、二の足を踏む方が少なくないようです。
  参考:河北新報(2012/10/14)

 
 
 地権者との交渉

  復興に貢献すべきと復興事業促進のため地権者が自治体による買収に協力する
  一方、諸事情で難航するケースも見受けられます。

 
  以下は買収が難航する事例の紹介です。

 
  移転場所に想定していた高台の地主に交渉に行くと「家を流された親族の家を
  建てるから」と断られ、別の場所を探さざるを得なくなることもあった。
  引用:朝日新聞(2012/9/11)

 
  町と被災者が連名で移転候補先の地権者に協力を呼びかけても難航。
  「金額が高くても手放さない」と話す地権者の女性は、こう続けた。「先祖様
  から譲り受けてきた土地で米や野菜を作って、孫に食べさせるのが生きがいなんだ。
  農地を潰したら生きがいも奪われてしまうのさ」
  引用:読売新聞(2012/6/20)

 
  宮古市でも復興住宅の用地不足から私有地を探しているが、担当者は「地権者から
  いい感触を得ても、金銭面でなかなかうまくいかない。民間業者など、土地を
  求めるライバルも多い」
  引用:読売新聞(2012/7/25)

 
 
 被災地首長の声:土地取得に特例措置を

  平時の制度、手続きを大震災の復興事業に適用することが復興速度を著しく
  鈍らせていることは明らかです。被災地自治体の首長から土地問題に関して
  特例措置を求める声があがっています。

 
  大槌町長
  「いったん町が買い上げて事業を進め、権利調整は後でする、といった時限措置の
   法的な裏付けを国にお願いしたい。そうでもしないと、職員をいくら増やしても
   足りないし、復興も進まない。」
   引用:河北新報(2012/9/3)

 
  岩手県知事
  「多くの時間と手続きを要する土地問題については、一定期間、市町村へ管理・処分
   権限を付与するなどの特例措置を認めるべきではないか。復興には平常時と異なる
   ルールが必要だ。」
   引用:毎日新聞(2012/9/16)

 
 
抵当権がついた土地問題

   多くの自治体は規則で、公有財産を取得する場合は所有者に抵当権を消滅させ、
   取得に支障がないようにするよう定めています。
   引用:河北新報(2012/10/27)

   防災集団移転事業も例外ではなく、自治体は集団移転に伴う被災宅地の買取りに
   際し、原則、権利関係が複雑な抵当権の抹消を条件に設定。

   ※ 抵当権
     借金をする際の担保物件です。債務者が返済不可能に陥った際の、
     金融機関の保証として契約されます。借金を完済すれば抵当権抹消の
     手続きができます。

 
   仙台市では沿岸部の移転対象となる土地の1/4に抵当権が設定されていることが判明。
   名取市では土地区画整理で売却希望の土地の約2割に抵当権が設定。

   この抵当権が設定され、買取れない土地が集団移転の障壁となっています。
 
 
 金融機関:復興支援と経営リスクで板ばさみ
 
  抵当権抹消に消極的だった金融機関。債権回収の手段を失い、不良債権が増える
  恐れからです。政府全額出資の住宅金融支援機構は、抵当権抹消の方針を打ち出して
  いますが、民間金融機関側は抵抗感が強い状況。

 
  銀行関係者:「債務が残っているのに抵当権を解除するのは無担保融資と
  同じ。被災者だからといって、そんなリスクはおかせない」
  「検討中だが、通常は完済しないと外せない」(七十七銀行)
  「保証会社の取り決めもあり当行のみでは決定できない」(大東銀行)
  引用:朝日新聞(2012/10/22)

 
  抵当権が残る被災宅地は震災前より資産価値が低下し、買い取り価格がローン
  残高より少なくなるケースが大半と見込まれ、全額を納入されても残債が残る
  抵当権抹消に金融機関が応じづらい状況でした。
  参考:産経新聞(2012/11/8)

 
  しかし、抵当権を抹消し集団移転に協力しない限り復興が進まないとの
  認識が金融機関で徐々に浸透。復興事業の遅れは将来の顧客にも影響する懸念や
  金融庁や宮城県銀行協会による抵当権解除の要請もあり、一定の要件を満たせば
  抵当権解除を検討する金融機関が増えてきました。

 
 
  住宅ローン完済せずとも抵当権を解除

  住宅金融支援機構は、集団移転対象者がローンを完済できなくても抵当権の
  解除に応じる方針。「協力しないと復興が遅れる」という理由からです。
  債務が残る場合は、移転先の土地や家に新たに抵当権をつけ直します。
  参考:朝日新聞(2012/10/22)

  
  同機構は2012年11月12日に県内の説明会でこの新方式の発表を行い、宮城県内
  の主な金融機関も同調する方針。自治体が買取った被災宅地の代金全額をローン
  返済に充てることで、金融機関が抵当権を解除。債務が残る際は上記通り、
  移転先の土地や建物に抵当権を付けます。

 
  ローンの額自体が減るわけではありませんが、事業が進展することから自治体や
  被災者からは評価の声が上がっています。
  参考:朝日新聞(2012/11/13)

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2 Responses to 復興の遅れ:難航する復興事業の土地買収

  1. 亘理町に抵当権を有する土地を所有しかつ防災集団移転促進による居住不可能にされた住民 says:

     自分も津波(亘理町荒浜)に遭遇し自宅、店舗兼住宅の2か所を被災し、双方とも銀行と住宅支援機構の担保物件であり、国の方針で居住不可能地域に指定され、亘理町に買取を依頼したが、新聞にあるように”銀行が応じないため”処理が進まない状態です。
    国・県・町が住民(国民)の安全な生活を担保するため諸税徴収をし公共事業等により予算(税金)消化し実行してきたわけで、未曾有の災害に遭遇したためすべての生活サイクル(収入→諸税金→公共安全確て保→借金し企業→収入・・・)が途絶えた国民に
    ”銀行関係者:「債務が残っているのに抵当権を解除するのは無担保融資と
      同じ。被災者だからといって、そんなリスクはおかせない」
      「検討中だが、通常は完済しないと外せない」(七十七銀行)
      「保証会社の取り決めもあり当行のみでは決定できない」(大東銀行)”

    というような発言がでること自体、国家の方針に反することであり銀行としての本来の姿(お金を有効に動かし世の発展のために奉仕する仕事)がまるで見えてこない。
     宮城県の利益番付1,2位をとれる大企業の考えとは到底思えないし、復興が進まないのはそういう輩が多すぎるからでなないでしょうか?。
     抵当権抹消し、町に地所売却しても借金が残るようであれば、きちんと処理する気持ちと姿勢は人として持っておるつもりだが、進展しないのであれば担保物件として債権所有者に持って行って頂きたいと強くおもっています。
     なんとか早く解決し(抵当権抹消し残債処理)自身復興しようと現在、努力しているところですので、早くすっきりした形をとれるよう皆様のご協力お願いいたします。

  2. 一市民 says:

     昨年末の河北にも『かすむ復興』ということで仙台市内陸部の境界・相続関係の問題が取り上げられていた。直接的な用語では出ていないものの、地籍調査等で境界が明らかにされていないが故に復旧復興が長引いているという部分も少なからず認められる。
     被災者が自分で金を払って境界確定をしなければならないことを考えると、日頃から市で地籍調査を行っておく必要があったのではないか。(特に仙台市は周辺市町村よりも実施率が低い)
     被災者に寄り添ったうわべだけの形を繕ったり、復興・防災イベントで目線を逸らすよりも、まず先にすべきことがあるのではなかろうか。

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